第17章 覚悟と誠意、新しい関係
千寿郎が眉尻を下げ、ぽろぽろと涙を流しながら走っている事に気が付くと走り込みをしていた二人は急いで駆け寄った。
杏「千寿郎!?」
「どうしたの…!?」
杏寿郎はしゃがむと千寿郎の肩を掴み、心配そうに顔を覗き込む。
千「…ち、父上が…僕の頭を撫でました……!」
それを聞き二人は目を丸くさせた。
だが、すぐに杏寿郎はパッと明るい顔になり、桜は嬉しそうな声を出す。
「千寿郎くんのおつまみが嬉しかったんだよ!!あの素直じゃない槇寿郎さんが…そんな事を……!!」
千「あね…桜さんのおかげです……!」
「あれ!なんで今言い直したの!」
そう言う桜の隣で杏寿郎は心底嬉しそうに千寿郎の頭を撫でている。
弟が父をこのように話すのは初めてだった。
杏(変わってきているのは桜の目だけではない!)
そして興奮した杏寿郎は千寿郎を鍛錬に巻き込み、煉獄家の朝食は普段より遅くなった。
一方、そんな事情は知らない当の槇寿郎は 一人寂しく腹の虫を鳴かせて不機嫌になっていたのだった。
――――――
ユキはまだ杏寿郎の前では人の姿を許してくれず、桜は今日も槇寿郎の部屋で朝食を食べる事にした。
槇「今日はいつもより朝餉が遅くなかったか。」
槇寿郎はいそいそと座る上機嫌な桜を見ながら訊いた。
「ええ!そうですね!」
桜の眩しい笑顔を見て槇寿郎は不可解な顔をした。
槇「何故だ?」
「言えないですが良い事があって…。そのめでたい事ゆえの結果なので許して下さい!」
桜は心底嬉しそうに言う。
槇寿郎はまたその毒気を抜く笑顔にため息をついた。
槇「………そうか。」
短く言うと箸を持ち食べ始める。
桜はちゃんと自分が座るまで待っていてくれた事に気が付き頬を緩ませた。
「ツンデレさん………。」
槇寿郎は嬉しそうに知らない言葉を使う桜を見る。
槇「何だそれは。」
「ふふふー。秘密です。でも私としては褒め言葉です。」
そう口元を押さえながらふにゃふにゃとした笑顔を向ける桜を見て、槇寿郎はフッと意地悪な笑みを浮かべた。