第17章 覚悟と誠意、新しい関係
千「あにうえ…?あねうえ……?」
千寿郎は昨日、鍛錬に熱中しすぎてしまった二人を見ていたので『朝餉の用意の途中で一度声を掛けに行こう…。』と、まだぼんやりとした頭で思いながら洗面台へ向かおうと布団を出た。
襖を開け、すぅっと冷たい空気を吸うと廊下に出る。
床の冷たさに自然と足が速くなった。
千(早く春にならないかな……。)
そんな事を思いながら洗面台へ続く廊下に出るために角を曲がった。
すると響く水音が先客の存在を報せる。
外からは兄と桜の声が聞こえた。
―――となると…、
槇「何だ。」
千寿郎の気配に気が付いた槇寿郎は顔を洗いながら低い声を出した。
千寿郎はビクッと体を震わせると慌てて口を開く。
千「ち、父上!おはようございます!」
千(父上は普段、こんな早くに起きたりしないのに…。)
槇寿郎は顔の水滴を拭うと、振り返りさっさとその場を去ろうとする。
だが、千寿郎の横を通り過ぎようとする直前に足を止めた。
そして薄く口を開くとそのまま固まり、みるみる目を険しくさせる。
千寿郎はその様子に眉をハの字にさせてびくびくとした。
だが、槇寿郎は何も言わずに口を閉じると、通り過ぎざまに千寿郎の頭にぽすっと一瞬手を乗せた。
千「…………え…?」
千寿郎は目をまん丸くさせ、頭を両手で押さえながらパッと振り返る。
千「あ、姉う…桜さん…!父上が……っ…!!」
そう小さく呟くと、千寿郎は慌てて外に飛び出して二人を追いかけた。