第17章 覚悟と誠意、新しい関係
桜は完全に思考を切り替えた師匠の背中に向かって、"はい!!" と元気よく返事をする。
そして目を瞑り、少しの間お守りに額をくっつけてから顔を洗いに行った。
桜は人の手に水を溜めながらユキに、昨夜 人の姿を晒しても杏寿郎が何も怖い事をしなかったことを伝えた。
胸は決して温かくはなかったけれど、この前のように温もりが完全に消える事はなかった。
―――――――――
(杏寿郎さんはもう走ってるだろうな…。)
桜は庭へ降りると目を閉じて ぐーっと前脚を伸ばす。
そして、ぱちっと目を開けるとダッと門の外へ走って行った。
案の定、杏寿郎はもう走っていた。
だが桜は予想外のある変化に気が付く。
「杏寿郎さん!!!」
思わず呼び止めた。
杏「む、どうした!!」
足を止めて杏寿郎はバッと振り返る。
「杏寿郎さんの姿が少し見えるようになりました!人だと辛うじてわかる程度ですが!いつも通りの速度でしょうか!!」
桜は興奮した。
いつもは鮮やかな色の影、あるいは走り抜ける炎のようにしか見えていなかったからだ。
杏寿郎は大きな目をもっと大きく開くと、パッと明るい笑顔を浮かべ、桜の前まで大股で歩いてきた。
そしてぼすんっと大きな手のひらを桜の頭に乗せると、
杏「いつも通りだ!目が慣れてきたのだな!桜は少しずつだが、生き残る力を確実に身に付けていっている!任務同行に備えてもっと進むぞ!!」
と嬉しそうに言った。
桜もふるふると体を震わせて喜びを噛みしめると、"はい!!" と元気良く返事をしてまた走り出した。
一方その頃、早朝から大きな声を聞いて目を覚した千寿郎が目を擦りながら体を起こした。