第97章 【番外編】花火大会
桜は距離は保ってくれることを知って肩を撫で下ろしてトイレへ向かった。
しかし―――、
「……………………え……?」
―――バタンッ
瞳を揺らす桜の前には男が居た。
「あ、あの、すみません。鍵が掛かってなかったから誰もいないと思っ…、」
混乱しながらも戸を閉めたのが自身ではなく男である事を思い出した桜は青くなった。
(痴漢……かもしれない…。)
「わ、わたし出ま、」
桜が言い終わらないうちに男は自身の帯を解いて桜の口に入れた。
言葉を発せなくなった桜は唸り声を上げて杏寿郎を呼ぼうとした。
しかし、男がすぐに髪をガッと掴んで乱暴に頭を揺らす。
「…ッ」
その『黙れ』というような仕草に桜の喉がきゅっと締まる。
(よ、弱気になっちゃだめだ…。杏寿郎さんの為にも抵抗しなくちゃ…!)
『ん"ーっ』
桜は唸り声を上げて浴衣に入って来ようとする男の手を掴んだ。