第95章 続々と
『何ともない』と言った桜の言葉は確かに本心であった。
しかしそれはその時だけの話である。
その日を境に桜は杏寿郎を見送る度にその後暫くの間 自室に篭るようになった。
瑠火と槇寿郎は桜が精神的に不安定になっている事と 自室では泣いているかもしれない事を分かってはいたが、肝心の桜がそうと認めない。
そして変な所で徹底している桜は目の赤みが取れるまでは絶対に自室から出なかった。
それ故にほぼほぼ確定とは言え『不安定だった、泣いていた』と断言は出来ず、また、初日に酷く嫌がられ『二度としないで欲しい』と頼まれた為に槇寿郎は杏寿郎には伝える事が出来ない。
瑠火は早々に話してしまおうとしたが、桜が杏寿郎と穏やかに話しているのを見るとその時間さえも壊してしまいそうな予感がして踏み止まった。
更に杏寿郎は杏寿郎で自身の前では寂しさを完全に溶かしてしまう桜が裏でそのような事になっているとは夢にも思わなかったのだった。
しかし―――、
杏「近頃 父上と母上の君を見る目が妙なのだが心当たりはあるか。」
「……え?」
いくら両親に何も言われなくとも、桜の調子がいつも通りでも、いつもと明らかに異なる両親の目を見れば息子は流石に『何かある』と気が付く。
そしてそれは桜が黙って篭もるようになって僅か3日目の事だった。
「…………知らないです。杏寿郎さん、お疲れでしょう。私も眠いです。もう寝ましょう。」
杏「待て。つい今しがた『桃寿郎が腹の中であまりにも元気だから嬉しくて眠気が飛んでしまう』と言っていたろう。」
「それは……、その時だけです。今は桃寿郎も静かにしています。」
それを聞いて杏寿郎が桜の腹に優しく触れるとそれに応えるように桃寿郎が蹴り返す。