第63章 久しぶりで初めてのデート
杏(俺の腕の中でよく見せてくれていた顔だ、などと言えば困らせてしまうのだろうな。)
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それから歌舞伎を見終えると杏寿郎は近くの駐車場に停めてあった車に桜を乗せ、再び走り出した。
「お昼はどこへ行くんですか?」
杏「む、伝えていただろう!俺の実家だ!!」
まだ他の場所も回ると思っていた為 心の準備が出来ていなかった桜は思わず固まる。
その様子をチラッと横目で見て杏寿郎はおかしそうに笑った。
杏「20分程で着くぞ!そう緊張しなくて良い!皆楽しみにしている!!ああ、君は父上の様子に驚くかもしれないな!母上を亡くさなかった為か少し性格が…、」
そこまで言って桜に記憶が無い事を思い出した杏寿郎は口を噤む。
杏「すまない。少し舞い上がってしまった。」
「あ、…わ、私……っ、」
寂しそうに微笑む杏寿郎を見て桜は思い切ったような声色を出した。
「………私…、知りたいです。隠さなくていいです。杏寿郎さんの事も、私の大事な事全部…記憶が先に戻っていなくてもちゃんと知りたいです。」
それを聞くと杏寿郎は前を見つめて運転をしながら眉を顰め、目を細める。