第63章 久しぶりで初めてのデート
杏「ずっと楽しみにしていたんだ。……焦がれた約束のうちの1つだったからな。」
「約束…?」
杏「うむ。歌舞伎を観に行こうと約束をした。春になれば桜も見に行こう。俺の実家近くに桜並木があるんだ。」
「桜……。」
何かが引っ掛かりながらも思い出せず、桜の眉は自然と寄る。
杏寿郎はその真剣な様子を見て少し微笑んだ後 指の背で優しく眉間を撫でた。
杏「いずれ必ず思い出す。そんな顔をしなくて良い。」
「杏寿郎さんは……私に甘いですね。私の父と似ています。」
桜はそう言うと難しい顔をするのをやめて花のように笑った。
それから2人は家族の話をした。
杏寿郎が勇之の甘々エピソードに笑っていると柝の音が響き、いよいよ開演となる。
桜は慌ててイヤホンを耳に付けると舞台に視線を移す前に杏寿郎を盗み見た。
しかし向こうも同じ事を考えていたようでバッチリと目が合ってしまう。
桜が頬を染めながらも燃える瞳に見入り固まってしまった為、おかしそうに微笑む杏寿郎が代わりに桜の顔を前へ向かせた。
頭をぽんぽんと優しく撫でられると桜は我に返る。
そして なんとか前を見つめ続けながらも真っ赤になってしまい、イヤホンから聞こえる説明も何もかもが頭に入ってこなかったのだった。