第63章 久しぶりで初めてのデート
桜は自身を追い詰めている筈の男の胸に安心を求めて目を瞑りながら顔を埋めていたのだ。
「……っ!!…………っっ!!!」
桜は真っ赤になりながら無言で体を離すと千切れんばかりに首を横に振る。
それを見ながら杏寿郎は嬉しそうに笑っていた。
杏「恥じなくて良い。無意識であったと察しがつく。君はよくここで息を整えていた。」
「………私が…………?」
杏「うむ。何もおかしい事はしていない。おいで。そろそろ地上に上がろう。」
杏寿郎はそう穏やかに言いながら桜に手を差し伸べる。
桜は自然と導かれるようにその大きく熱い手を掴んだ。
地上に出て少し歩くと歌舞伎稲荷神社をチラッと見て杏寿郎は桜に視線を落とす。
杏「ユキ…癒猫様と意思の疎通は可能なのか?俺はまだ神社へ行けていないのだがあそこに居るのだろうか。」
手を握られて赤い顔を伏せるようにして歩いていた桜は その言葉を聞くとパッと顔を上げた。
「実は昨日会いに行ってきたんです!ユキ様は神社にいました。少しだけでしたがお話しも出来ました。それで…本当に杏寿郎さんの事も知ってて……。」
杏「そうか!!今は君の胸にいないのか?」
「…むね……?……今は………?」
桜の不思議そうな表情を見て杏寿郎は桜がもう暴力の対象ではなくなった事を悟った。