第63章 久しぶりで初めてのデート
杏(うむ、今世でもきちんと "効く" ようだな。)
桜を見ていた周りの男は皆肩を跳ねさせると青い顔をして俯き、去っていった。
杏寿郎は漸く心置きなく桜の表情を堪能すると溶けかけたソフトクリームに口を付けた。
杏寿郎は食べる量はとても多いが、育ちが良かった為にその食べ方はとても丁寧であった。
それ故に速度は人よりは確かに速いものの驚く程ではなかった。
つまり桜は杏寿郎より一足先に食べ終わり、いつの間にか収まってしまっていた杏寿郎の腕の中で湯気が出そうなほど真っ赤になっていたのだ。
(お、落ち着かなきゃ…。あんまり余裕がないと恥ずかしいもの。現に杏寿郎さんは何ともなさそうに……、何とも…、)
杏「うまい!!」
(恥ずかしがってはなさそうだけど、これは一体…、)
杏「うまい!!!」
「きょ、杏寿郎さん…、」
杏「うまいっ!!!」
桜は不思議と杏寿郎の大きな声で目立ってしまう事には恥を覚えなかったが、会話が出来なくなってしまうと少し途方に暮れた顔になってしまった。
しかしそんな隙のある顔をしていても杏寿郎の手が桜を掴んで離さなかった為、話し掛けようとする男はいなかった。
その事については安心であったが やはり慣れない近さに頬の熱は冷めず桜は追い込まれていく。
(杏寿郎さんがある意味一番危険よ…。心臓こわれそう……。早く食べ終わって……!)
杏「よもや。これは嬉しい反応だな。」
「………………え……?」
桜は縋る想いから "安心する場所" を本能的に求めていた。
そしてそれは杏寿郎の胸の中だった。