第63章 久しぶりで初めてのデート
(普通だったら私も家族も友達も知らない人がこんなに私の事を知ってたら怖いって思う…。でも、何でだろう。『きっと、この人の前で楽しんでお箏を弾いたんだろうな。』って思えてしまう。)
「そう、なんですね……。」
桜は温かいようなもどかしいような気持ちを覚えたが、次第に曲に聴き入り体の力を抜いていった。
それを横目で確認すると杏寿郎も小さく息をつく。
杏寿郎は桜がこの世で一番弱い生き物だと思っていた為、疲れてしまえば家へ帰すつもりでいたのだ。
杏(まだ一緒に居られそうだな。)
―――
「私、実は歌舞伎はまだ数回しか観たことがなくて…、」
杏「うむ、知っているぞ!!」
「それも知っているんですね。」
桜はもうそれ程驚かなくなっていた。
2人は今歌舞伎座の地下一階にて とある列に並んでおり、杏寿郎はどこかそわそわとしている。
(杏寿郎さんって大抵笑顔だけど…なんだか今はわくわくって感じの笑顔だな………ちょっと可愛い…。)
そう思ってくすっと笑うと杏寿郎が桜の方を向いて目を大きくした。