第63章 久しぶりで初めてのデート
杏「君は相変わらず分かり易いな!!愛いぞ!!!」
(…………古風な言い回しをする人だな…。)
桜は顔を両手でパタパタと煽ぎながら杏寿郎を横目でチラッと見た。
すると横顔からも分かる瞳の色に目が行く。
(結局動画については何もきけてないや。今日、勇気が出たらきいてみようかな…。)
杏「どうした。」
「ひゃいっ」
杏「………その反応も酷く愛らしいがあまり緊張していると疲れてしまうぞ。勿論疲れたら無理はさせないが…そうだな、音楽を用意してきたんだ。聴けばリラックス出来るかもしれない。好きに操作してくれ。」
そう言うと杏寿郎は一瞬だけ2人の間にある端末に視線を落とした。
桜は頷くと無線でオーディオに繋がっているそれを手に取る。
そして目を見開いた。
「杏寿郎さん、箏曲聴かれるんですね…!珍しい…。あ!私、この曲好きなんです、」
杏「『ロンドンの夜の雨』だろう。」
桜は言い当てられると思わず端末を取り落とした。
曲名以外何も言わない杏寿郎の代わりに箏の音だけが車内に響く。
「……そんな事も…知ってるんですか………?」
杏「ああ、聴いた事もある。君の演奏はこの奏者より雫の表現が綺麗だった。もっとゆっくり、広がり響く音を、波紋に重ねて楽しんでいるようで…。」
確かに桜の演奏より車内に流れる演奏は淡白だった。