第11章 夢の中の人
杏寿郎は桜の背中を優しく撫でて言葉を促してくれる。
それに応えるように桜は素直に口を開いた。
「……鬼殺隊に尽くす覚悟は確かにできました。自身に危険が及ぶ可能性があることも飲み込めてます。」
「誰かを助ける為に誰かを見殺しにする事も、その事で恨まれる事も覚悟してます。」
「…でもその前に、私は弱いです。もちろん鍛えます。最善を尽くします。でも、今は弱いです。今この瞬間から強くなるまでの間……私が任務に向かえなければ、その間ずっと、私は隊士さんの命を取りこぼし続けます。死なせない為に来たのに…。」
それを聞いて杏寿郎の手が止まった。
杏「傲らず自身の欠点を自覚するのも強さだ。」
その声は穏やかで静かだった。
杏「だが!!」
声色が急に明るくなり、桜は驚いて顔を上げる。
杏「君も真面目が過ぎるな!それも時と場合によっては毒にもなる類だ!」
杏寿郎は眉尻を下げて微笑んでいた。
杏「いいか、桜。」
また静かな声を出すと大きな手で桜を撫でる。
杏「これから死ぬ隊士は、 "鬼が殺す" のだ。君じゃない。」
桜は少し目を大きくしてから小さく頷く。
そしてぼんやりと思った。
(この人はこうやって吐ける場所をちゃんと持っているのかな…。)
―――――――――
―――スー…スー…
杏寿郎が寝たのを追うように、抗っていた桜の瞼もとうとう下りてしまった。
しばらくすると杏寿郎の自室に二人分の静かな寝息が響き始める。
その瞬間、ふわっと布団が小さくなった。