第11章 夢の中の人
桜は猫の姿だったため筋肉痛で体がだるかった。
(で、でも…寝ちゃだめ……。)
寝たら人に戻ってしまうかもしれない。
桜は泣きたくなりながら眠気と戦っていた。
それに、自分の身に起きた事を把握しきれていない事、今までの記憶もこの世界の知識もない事、これからの仕事が人の命に関わる事。
(頭がパンクしそう。でも………考えても意味がない…。)
桜はこの出鱈目な状況をなるべく素直に受け入れようとしていた。
この手の理不尽にも思えるような事は大抵抗うより、飲み込んだ方が早く済むと経験していたからだ。
それに…今回の事は規格外過ぎて考えても答えは何も出ない。
(今は考えても仕方ない。仕方ない。…考えちゃだめ。不安になる…。)
そう思いながら、杏寿郎に心配かけないように俯いて寝たふりをした。
そして目の前で呼吸する度に動く杏寿郎の体をぼんやりと眺める。
普段は鈍い桜だが、自分の杏寿郎への好意が異性に対する物も含んでいると気が付いていた。
(今まで接してきた人達と違う…でも私が猫の姿をしていたからかもしれない。それにこれからは恋愛なんてする余裕は…ない、よね。なにより……、)
―――怖くないと感じたから、特別に思うあまり恋愛感情と勘違いしてるのかもしれない。