第56章 戦いを終えて
杏寿郎は視線を合わせると再び桜の頬を優しく撫でながら口を開く。
杏「冷静さを欠いてつい『警戒を解くのは良くない』と言ってしまったが俺の理性が飛ぶとなればそれは家での話だ。警戒を解いても問題はないだろう。俺達は夫婦だからな。襲うと言っても少し荒く愛すだけでそこには愛情がある。この話はお終いだな!」
(……問題はある。)
「色々言いたい事はあるけれど…、今はお外で、くっついたり口付けしたりするのがだめって言ってるの。」
そう話題を戻して杏寿郎を注意するも桜は緩んだ杏寿郎の腕から出て行かない。
緩んだ腕に気が付いていないのか、それとも心の底では満更でもなかったのかは分からなかったが、杏寿郎が口角を上げるには十分な理由だった。
「な…何で笑って……、あっ」
桜は漸く杏寿郎が自身を留めていない事に気が付くとパッと身を離そうとする。
しかし腰が持ち上がらない。
熱く好ましい体温が心地よくて離れ難く、桜はその体勢で暫く止まった後 そろそろと杏寿郎の胸に肩を寄せた。
(嫌なわけじゃない…嫌なわけがない。お外だからしちゃいけないって思ってたのに…いつも調子を狂わされてしまう。自分から離れたくない…。)
そっぽを向いていたので桜の表情までは分からなかったが 杏寿郎は赤い耳を見付けると眉尻を下げながら笑った。
杏「君は本当に愛らしいな。素直じゃないようでいて偶にとても素直だ。おいで。揶揄ったりはしない。近くに寄ってくれて俺もとても嬉しい。」
真っ直ぐな言葉を聞くと 桜は恐る恐る振り返って杏寿郎の首元に顔を埋めた。