第10章 お見送りとお父さん
父「……おい!なんだ!」
そう問うも返答はなく、聞こえるのは絶えず響く気味の悪いカリカリ音。
意図の読めない行動にため息をついて、父親が襖に近付こうと腰を浮かせたときだった。
―――バーーーンッッ!!!!
「………………………。」
夢中になるあまり桜は後ろ足で立ち襖に手を掛けてしまったのだ。
目の前の襖は清々しいほど大きい音を立てて部屋の中に倒れた。
それに乗っかる形になっている桜。
そして………、
(や、やだ…………襖の下からお父さんのものと思われる足がのびて、る……。)
桜がそう思いながらもあまりの事に固まっていると、
父「いつまで乗っている気だ………?」
と襖の下から低い声が響いた。
「す、すみませんんッ!!!!!」
慌てて飛び退くが、桜は着地の際に転がっていた酒瓶を踏んでしまい 空中で半回転して背中から派手に落ちた。
―――ドタンッッ
桜は両手脚を上に向けた情けない姿のまま、もう申し訳ないやら恥ずかしいやらで固まってしまった。
父親が襖を薙ぎ払うようにどけて出てくると、
「…お風呂へどうぞ。」
天井を見上げたまま、そうぽつりと呟き桜は口を噤んでしまう。
その様子を見て、父親も無言で眉をしかめていた。
―――
そこへ風呂の用意を終えた千寿郎が飛んできて惨状に息を呑む。
そして "ここは自分が元通りにするので!" と父親を風呂へ促し、なんとかその場を納めてくれたのだった。