第10章 お見送りとお父さん
父親の部屋の前に着き、息を整える桜。
(あ…よく考えたらお父さんの名前知らないや…。)
桜は千寿郎に訊きに戻ろうかと迷ったが、
父「なんだ。」
気配を感じた父親に先に話しかけられてしまった。
「あの!入ってもよろしいでしょうか!」
桜は慌てて尋ねる。
襖の外で済む用件だったのに、習得した"襖開け"を活用したい桜は思いが先走り、その後の展開をよく考えていなかった。
父「………入れ。」
迷ったような間のあと、父親は投げやりで覇気のない声色を出す。
(機嫌が悪いのかな……。それともいつもこんな感じなのかな…。)
「失礼します!」
桜は返事と共に思考を切り替えると、 "よし!" と姿勢を正して襖に手をかけた。
先ほどしていたようにうまく隙間に爪を……かけ…て…、
(…ん?)
その襖は杏寿郎の部屋のもののようにすんなり開かない。
桜は一生懸命何回もカリカリと爪を引っ掛けた。
父「……おい。」
父親は "入っていい" と言ったのになかなか入らないでいる得体のしれない生き物に思わず声をかける。
しかしまたもや桜は集中しすぎて声が聞こえなくなっていた。