第50章 すれ違い
薫(『家庭がある女が何してんだ』って絡まれた事があるから旦那がいるって事も秘密にしてたかったんだけど…もう言った方がいいかな……。)
そう思って薫が口を開きかけた時、噂の中心の二人目である杏寿郎が浮かない顔で近付いてくる。
それを見ると男隊士達は慌てて走り去った。
長い髪を高い位置で結った凛々しい彼女はその様子を見て呆れた様に息をつくと今度は杏寿郎の方を向く。
薫「それで…、また会えなかったんですか?」
杏寿郎はここ最近ユキに導いてもらえなくなり、時間が取れれば蝶屋敷へと通っていた。
杏「もう一ヶ月も桜に会えていない。会えないどころか手紙も返ってこない。担当が不死川に変わった事さえ他から聞いた。」
薫「煉獄さんがやり過ぎたからですよ…。私はそもそも勧めていませんでしたし、やるとしてもお二人の距離感なら三日で十分過ぎると言った筈です。」
その厳しい声色に杏寿郎は眉尻を下げる。
薫と杏寿郎は、たまたま任務が一緒になった時 桜に治療してもらった事があった薫が杏寿郎に挨拶の言葉を伝えに行った際に関わりを持った。
そして周りを勘違いさせた二人の柔らかい独特な雰囲気は桜の話をしている時に出たものであった。
杏寿郎は男相手に桜の魅力を語る気にはなれなかったが、相手が女となれば話は変わる。
そして知り合って早々『桜にもっと求められたい、甘えたがりにさせる為に焦がれさせたい』という話をし、その後も薫の姿を見付ければ積極的に惚気を話すようになっていたのだった。