第50章 すれ違い
その音を聞くと桜は直感的にそこに立って自分達の会話を聞いていたのが杏寿郎である事を悟った。
杏「桜………?」
杏寿郎の動揺して掠れた声が部屋へ入ってくる。
すると桜の心臓は跳ね、何を言われるのか聞きたくない気持ちと 噂によって乱れた気持ちから耳を塞いだ。
「し、下の名前で呼ばないで下さい!!何で部屋の前まで来たんですか…夫婦でも、恋仲でも……何でもない人なのに…!」
杏「……一体…何を……時透、ここを開けてくれ。桜と話を、」
「煉獄さんがここへ入るなら私 庭からお外に出る。」
桜がそう小さな声で言うと無一郎は桜の代わりに廊下へと出た。
無「部屋に入らないって。」
無一郎は部屋の中に戻ると桜にそう伝え、襖を挟んで隣にある部屋へ向かう。
襖の目の前で足を止めると無一郎は振り返った。
無「帰るように言ったけどまだ廊下にいるよ。じゃあ、おやすみ。」
「えっ……あ、おやすみなさい…。」
(もう遅いのに廊下で過ごす気なのかな…。まだ冷えるのに…。)
そう思うと桜は居ても立っても居られず、掛け布団を持つと 散々悩んだ挙句それを廊下にそっと出した。
襖はすぐに閉めたが無一郎の言う通り、確かに人の気配があったような気がした。