第9章 鍛錬
杏「むぅ。」
杏寿郎は千寿郎がビシッと指を差した縁側にきちんと座るも、腕を組んで不可解な顔をした。
――――――
千寿郎は厠へ行く前に台所にいる桜を見つけた。
千「あ…!桜さん!」
桜は人の姿で湯呑みを両手で掴み、水を飲んでいた。
「あれ!どうしたのー!?千寿郎くんもお水?」
疲れを全く感じさせない声で桜は緩やかに笑う。
千「いえ…、兄上が厠の戸を開けてあげなければと言い出したので、僕が代わりに行くと言ってここまで来ました。」
千寿郎は眉尻を下げて笑った。
桜も "あー…" と少し居心地悪そうに笑う。
千「そういえば、さっき何でお手洗いを厠と言い換えたのですか?」
きょとんとした顔で訊かれ、桜も首を傾げる。
「もしかしてお手洗いってこの時代でも通じるの?」
そう訊くと千寿郎は納得したように笑った。
千「はい!桜さんの時代でも使われているんですね!」
二人はその小さな発見に時代を超えた繋がりを感じ、ふわっと笑う。
(知ってる言葉がそのまま通じるのってほっとするなあ……。)
桜は結局、ろくに水を飲まないまま湯呑みを片し、お茶と大量の大福を持つ千寿郎と共に縁側へ向かった。