第9章 鍛錬
杏「よく頑張ったな。」
千寿郎の後ろに目をやると杏寿郎が桶を持って歩いてきた。
その声の柔らかさは何とも心地良く、桜は少し泣きそうになる。
だが、コトッと目の前に置かれた桶を見ると涙は引っ込んだ。
見れば水が張ってある。
(の、飲み水を持ってきてくれたのかな…。)
気持ちはとても嬉しいが、桜はまだ猫の舌を使って飲み物を飲んだことがない。
桜は少し戸惑ったがぐっと体を起こすと桶に一歩近寄る。
(………すごい喉乾いたし、チャレンジしてみよう…。)
「ありがとうございます。」
おそるおそる顔を近付け猫の真似をしてみる。
(わあ……信じられないくらい飲めない…。)
喉から手が出るほど欲しい水がすぐそこにあるのに飲めない。
さらに突き刺さるような視線を感じて冷や汗が流れる。
杏寿郎は至近距離まで迫り、期待を込めた大きな目で桜を穴が開くほど見つめていた。
「………………お、美味しい…で、す…。」
桜は半泣きでなんとか杏寿郎にそう伝えた。