第44章 ※ずるい人
「ずるい。」
杏「…それは俺のことだろうか。」
起こそうと思っていなかった時に目を開け、更に心当たりの無い事を言う桜に杏寿郎は首を傾げて不可解そうな顔をする。
桜は少し眉を寄せて視線を外し、問いに答えないまま杏寿郎の胸に顔を埋めた。
(押せ押せのままだったら良かったのに。そうしたら知らんぷりできたのに…。)
そうして誘いに応じようか迷いだした時、杏寿郎は浴衣を直してから桜を優しく抱き締め直し 落ち着かせる様な手付きで背中を撫で始めた。
杏「大丈夫だ。俺が側に居る。安心して寝てくれ。」
その優しい手の温もりと、杏寿郎の体がすっかり落ち着きを取り戻していることに気が付くと 桜は薄く目を開いたまま眉尻を下げる。
(こういう優しいところ、本当に好き。…だけど………。)
桜は そーっと胸から顔を離し杏寿郎を見上げた。
すると大きな目をパッチリと開いて覗き込んでいた杏寿郎と目が合う。
静かだった為、目を閉じていると思い込んでいた桜は杏寿郎の瞳の迫力にビクッと体を震わせて固まる。
すると杏寿郎はまた心配そうな表情になり 桜の頬を手の甲で優しく撫でた。