第44章 ※ずるい人
杏「よもっ……、」
「…あっ」
弱々しい声と共に杏寿郎が固まると桜は慌てて体を起こし、蹴り上げた部分を優しく慈しむように撫でる。
「ご、ごめんなさい!!つい…!」
杏「いや!!良い蹴りだった!!君は人を攻撃する事が不得意のようだからな、俺で練習すると良い!!!」
「……練習ってそんな…悪気がない人を蹴るなんてむずかしいですよ………。」
桜の心底困った声にせっかく明るくなっていた杏寿郎の表情も困ったものになってしまった。
杏「俺が心配なんだ。頼む、毎晩俺の股間を蹴ってくれ。」
「…………それ、ちょっと誤解を生む言い方です。お外では言っちゃだめですよ。」
可笑しそうに少し頬を緩ませる桜に杏寿郎が首を傾げると、桜は『気にしないで』と言う様に ふるふると首を振ってから微笑む。
「とりあえず対策が見つかりましたね、安心してください。心削れたって話も嘘のようでしたし私も安心しました。ではおやすみなさい。」
杏「桜。君に断られる度、俺は君が思うよりも落ち込んでいるぞ。寂しいという気持ちもある。これは解消してくれないのか?」
「抱擁だけでも十分、」
杏「足りない。もっと君の体温を直に感じながら深く愛したい。」
低く甘い声に桜の顔は一気に赤くなる。
しかし何も返さずに黙り込むと目を閉じて寝たふりを始めた。