第43章 弱いこころ
杏「疲れて任務に支障が出るのではと心配させてしまっていたのか。すまなかった。だが…、」
杏寿郎は一度言葉を切ると後ろから桜をきちんと抱き締め直す。
それに桜は再び困った様に眉尻を下げた。
「杏寿、」
杏「あれくらいならば疲れのうちに入らないぞ。」
「………え?」
桜が警戒を解いて間の抜けた声色を出した為、杏寿郎はその隙に桜の体の向きをちゃっかりと元に戻した。
杏「疲れない。鍛錬や鬼と闘う時と比べたら大した運動量ではない。」
その言葉から行為中の汗を滴らせる杏寿郎を思い出した桜は赤くなりながらも眉を寄せた。
「で、でも、汗かいてたし…、息だって乱れて…苦しそうな顔をしてる時も、」
杏「桜!!!」
突然大きな声で名を呼ばれた為 桜は体を大きく震わせて目を見開いた。
そして恐る恐る見上げると視線の先の杏寿郎は僅かに頬を染めていた。
(……この顔、とっても久しぶりに見た…。)
杏「余裕を失くした時の話は無しだ。正直なところ気恥ずかしい。」
「わ、分かりました。」
杏寿郎の見慣れない表情に釣られて頬を染めた桜は空気に飲まれ、日頃の仕返しに絶好であった機会を逃してしまった。
その事に互いに気が付かないままむず痒い様な空気が流れる。