第8章 覚悟と条件
千寿郎は父親の膳を下げてきて、桜と共に並んで洗い物をした。
洗い物を終えると、千寿郎に渡された手拭いを桜はぎゅっと握りしめる。
そして、ずっと気になっていた事を訊こうとおずおずと口を開いた。
「千寿郎くん…。今から訊くことは会ってまだ一日も経っていない私がするべきじゃないかもしれない…から、言いたくなければ無理しないでね。」
千寿郎は振り返ると不思議そうな顔をして首を傾げた。
千「…何でしょう?」
「あの……お母さんについては聞いたけれど、お父さんは…どうしてるのかな…。」
千「…それは流石に気になりますよね。」
千寿郎はどこか辛そうな表情をしたあと、眉尻を下げて微笑んだ。
千「最初は神様だと思って桜さんを一時的に家へ案内しましたが、状況を聞いて今は人としてここに住んでもらいたいと思っています。」
千「でも、そうなればもちろん父上にも伝えなければなりません。その時、一緒に父上のお部屋へ行きましょう。」
そう言うと千寿郎はまた微笑んだが、眉尻は辛そうに下がったままだった。
それを見て桜も不安そうな顔をする。
「会う際に気を付けたほうがいい事とかあるかな…?」
千寿郎は考えるように少し首を傾げると、視線を落として小さい声を出した。
千「……おそらく構えずに挨拶をするだけで大丈夫だと思います。」
その様子は、明らかに関係が上手くいっていないことを示していたので桜も眉尻を下げる。
「…わかった。ありがとう。」
そう言うと桜は千寿郎を抱き寄せて、元気づけるように優しく頭を撫でた。