第1章 朝が来るまで待って 〜明智光秀〜
しばらくして…
「煩い心臓だ」
ふっと光秀さんが笑って言った。
「目が覚めてしまいましたか?」
「あぁ、久しぶりによく眠れた」
「それは…良かったです」
「お前は違うのか?」
「えぇ、おかげ様で」
くくくと光秀さんが笑う。
「それは悪かったな」
全く悪びれずに言う。
困った人。
悪い人。
「こんな所を見られたら秀吉さんに怒られます」
そう言うと脇をくすぐられた。
「俺の前で他の男の名を言うなと言ったはずだ…悪い子だ」
私は光秀さんに向き直る。
目の前に光秀さんの顔があった。
「なかなか良い顔をするな」
「男を誘う、良い表情だ」
嘘ばっかり。
そんなこと思ってないくせに。
私は下を向いた。
「不服そうだな」
「はい」
「お前は素直でいい」
「一緒にいると妙に落ち着く。この香りも…」
と言って私の首筋に顔を埋める。
「!!!」
ビクッと身体が飛んだ。
本当にやだ、この人。
なんでこんなに余裕なの?
私はもう、溺れて息もできないのに。
こんな風にされたら勘違いしてしまいそうだ。
まるで恋人同士みたいじゃないか…。
「光秀さん」
光秀さんの胸にそっと手を添えて言う。
「会いたかったんです」
絞り出すように言った。
「いつも会えなくて寂しかったんです…私」
「だから、今日は会えて…話せて嬉しかったです。こんな風に泊めて頂けて、本当に感謝しています」
「ありがとうございます」
さすがに顔は見れなくて、自分の手と光秀さんの鎖骨を眺めながら告げた。
不思議なことに布団の中だと私も素直に話せる。
この暗闇のせいか、この距離のせいか…。
身体の距離が近いと、心の距離も近く感じるからだろうか。
光秀さんは何も言わない。
不安になって顔をあげると
「…やっと目が合ったな」
光秀さんの優しい顔がそこにあった。
その顔に、声に、私は頭のてっぺんから爪先まで心臓になったみたいに、ドキドキして、ときめいてしまった。
ずるい、ずるいです。
そんな優しい目で見ないで下さい。
まるで愛しい人を見るような目で。
明日になったら、朝が来たら、また意地悪な貴方に戻ってしまうのでしょう?
これ以上、私を見つめないで。
夢を見させないで。
引き返せなくなってしまう。