第2章 【前日譚】恋と呼ぶには近すぎて
「なあ、内山の誕生日っていつ?」
彼女のことは俺より妹の方が詳しい。
「来週の土曜ー!」
「なに、お祝いすんの?」
母親が野次馬のようにかぶせてくる、それが気に入らなくて聞いただけ、と返す。
来週の土曜を超えたら?あいつ等が付き合う?
よくわからない、藤堂はいつからあいつが好き…だったんだ?
そんなそぶりなかった…ような、というか中学生で惚れたなんだなんて早すぎるだろ。
早すぎる…よな…?
あいつは今日俺を呼ぶために教室に来たけど、次は藤堂のために来るようになるのか?
違うことを考えようとしても沼にはまったみたいにぐるぐるとそのことだけが頭を支配する。
そういえばなにしに来たんだっけ、と思ったところで名簿の存在を思い出した。
「重症だ…」
思わず出た言葉に自分で深く同意する、こういうときは勉強だ、なんてったって受験も近いし。
同じ高校になったら、俺、あいつとどう付き合えばいいんだろう。
藤堂も気が気じゃないよな、俺だったら嫌だ。男の幼馴染みと同じ高校に通うなんて。
いやいやいや、まだ2人が付き合うって決まったわけじゃねーし、なに考えてんだ、そもそも受かるかどうかも決まってねーんだよ。
数学の教科書を開いて、目頭を押さえる。
中学男子の性だろうか、思わず生々しいのを想像してしまい嫌な気持ちになった。
あいつの日に焼けた肌を想像して、耳が熱くなるのを感じる。最悪だ!
ガタッと席を立って足早に玄関に向かう、気持ちを切り替えないとどうにもならなそうで
「もう野球ないのに走り込みなんかしてどーすんの、勉強は〜?」
と言う母親の声を振り切って、帰ったらやる!と乱暴に言い放ち家を出た。
ペース配分なんか気にしてもしょうがない、全力疾走で走り抜ける。
なにも考えられなくなるまで走り抜けて、眩しい夕焼けに目を細めて、帰り道に会いたくないので、普段と違う道をひたすらに走る。
マンションに着く頃には肺が暴れ狂う、十二月にしては猛烈に汗をかいた、これで切り替えることもできそうだ。
「あ、花井」
同じマンションのコイツとエレベーターの前で鉢合わせることがなければだ。