第2章 【前日譚】恋と呼ぶには近すぎて
「花井、ちょっと相談があるんだけど」
野球部は引退したが、同じ野球部員とは絡みがある、というか藤堂とは友達だ。
「相談?進路のこと?まだなんか迷ってんの?」
今の時期の相談といえばこれしかないだろう、十二月に差し掛かり、願書の提出も間近にして未だ進路に悩むやつは少なからずいる。
目の前の友人はそんな男では無いような気もしたが、それとも別の心配事だろうか?
「いや、部活のこと、てか内山のこと」
その名前が出た時、一拍遅れて胃が縮んだ、目の奥が揺れるような感覚。
「内山?」
帰るためにかけたカバンがすこしずり落ちる気配がしてあわててかけ直す。
「そ、お前幼馴染みだろ?やっぱデキてんの?」
なんだ?この会話は?
胃の底に水が溜まるような、不快な気持ちだ。声を荒げないように慎重に口を開ける。
「デキてねーよ、ただの幼馴染みだっての、恋愛脳かよ」
と、苦言を呈す、藤堂はそっかー、とどこかほっとした様子でカバンを肩にかけた
「で、相談なんだけど」
「花井ー」
彼が何かを言うと同時に、聞いたことのある声が後ろからかかる。
反射で振り向けば幼馴染みの彼女が教室のドアの前に立っていた。
藤堂を一瞬見てから、なんだかふわふわとした気持ちで近づく
「ンだよ」
他の教室に来ても彼女は緊張するような面持ちもなく、至って普通だった。
どこか、彼女は大人びた印象がある。
「部員の名簿さ、花井持って帰っちゃってるでしょ。斎藤くん困ってたよ」
斎藤は二年で、俺が引退した後の後続キャプテンだ。名簿?と首を捻ってからそういえば斎藤とポジションの相談をする時に借りたまま持って帰ってしまったことを思い出す。
「ああ、明日持ってくって斎藤に言っといて」
「家帰ったら取りに行くでもいいけど」
「いいよ、ちょっと部活の様子とか見たいし」
やり取りをした後、ふと彼女の目がまた優しく細まっていることにはたと気づく。
なんだろう、このふわついた気持ちは?
友人のことを忘れていたことに唐突に気付くほどに、浮かれているような、沈んでいるような、そんな気持ちは?
「斎藤くん喜ぶよ、部活でも花井の話ばっかだもん」
「そん…「内山、なんの話?」