第2章 【前日譚】恋と呼ぶには近すぎて
これはクリスマスイブも近い冬の受験期の話だ。
「花井さ、西浦受けるの?」
中学で付き合ってる奴なんてごまんといたし、そう言う奴に対して俺は羨ましいと感じながらもマセてる、と斜めに構えてた。
だってまだ中学で恋愛なんて早いし、野球がしたいし。
「どうでもいいだろ、てか話しかけんな」
女の幼馴染みというのは同学年の男からの格好の餌だ、部活でも幼馴染みがマネで、俺はキャプテンで、家が近くて。
嫌になるぐらい詰られて、実際嫌になった。
高校になったら彼女ぐらいできるだろう、野球なんてやってもやらなくてもいい。
「花井」
「話しかけんなって!」
部活でも最低限話しかけるなと言ったのに、こいつは何も気にしてないみたいな顔で話しかけてくる、いつも蔑ろにされるのは俺の方だ。
俺だけが気になって、俺だけが悶々として、俺だけが気づいて、俺だけが。
「……ごめん」
謝られて初めて言い過ぎた、そう思っても余計なプライドが邪魔をする。何とも正体のつかないイライラが募り、思わず顔を背けて乱暴にその場を去った。
カッコ悪いな、と思うのはいつも家に帰ってから、情けなさにどうにも及ばず、心がざわつく。
「走ってくる」
それだけ母親に言って足早に家を出る、こういうときは勉強するか体を動かすかに限る。今はどうにもこのイライラを体を動かすことに使いたかった。