第3章 【前日譚】男だったら
「悠ちゃん、キャッチボールしよ」
女だからって理由でグラウンドに入れなくなってから、中学生になっても神楽は俺と遊びたがった、こういう気持ちをなんて表せばいいか、俺にはまだわからない。
でも、こう、心臓のあたりがキューってなって、今すぐにでも駆け寄って手を握ってあげたくなって、もっと近づきたくなるような、そんな気持ちがずっと続いた。
「おう」
楽しくないわけじゃない、むしろずっと一緒に居たいと野球をしてた頃から思ってる。
どうして神楽は男じゃないんだろう、神楽が男だったら全部解決するのに、神楽の投げた球が打てるのに。
「今の中学にはね、女子野球ないんだっ、よ!」
パシン、とグローブが鳴る。
俺のチームにも、野球友達にも、女はいない。
「つまんねー中学だな」
でも、こいつは野球がしたいんだ。
こんな時に思うのは俺は女じゃなくてよかった、みたいなこと。口に出したらきっとこいつは傷つくから何も言わない。
「小学校にもなかったけどね」
ボールを返せば神楽のミットが鳴る
「ほかに野球チーム入んなかったの?」
そういうと、神楽は困ったように笑う、俺はその顔が嫌いだった。
キャプテンの言ってることがわからなかった俺を見てた時と同じ目だ、何も言ってはくれないのに、何もわからない俺を気遣うその目。
「…言ってくれなきゃわからないだろ」