第3章 【前日譚】男だったら
ちょっとした休みの日に行く爺ちゃんの家、その隣の家に同じくちょっとした休みの日に来てるのが神楽だ。
初めて会ったのがいつかは覚えていない、気がついたら爺ちゃんの家に来たときに遊ぶ関係になってた。
神楽は野球が好きだ、それで俺ほどじゃないけど野球が上手い。
野球が楽しくて楽しくて仕方がないと言う顔でボールを構える。俺はその顔を見るのが好きだった。
どうしようもなく野球が好きで、打ったボールはどこまでも高く飛んでいけるような、塁に出たらどこまでも遠くまで走っていけるような、そんな晴れ晴れとした目が好きだった。
その顔を見てるこっちまで元気が出て、ああ、俺って野球が好きなんだなって心から思える。
「神楽ー!打たれるなよー!」
一緒に遊んでる時にかかる神楽への声援はまるで俺に声がかかったみたいに嬉しい。
神楽の投げるボールを打つのが好きだ、打った球は飛行機より高く飛んで、宇宙の果てまで届く。
バッターボックスに入ったら世界には俺と神楽しかいなくて、それが心地よかった。
ばこん、と景気のいい音が鳴って、ボールは空高く舞い上がる、あいつの頭上を超えて、高く、高く。
「田島ー!!走れ!!」
ハッとして弾かれたように塁に飛び出す。
一球で終わってしまったと思うと無性に悲しくなった、神楽は塁に出た俺をチラリと見ると、次の打者の方を見てた。
こういう時はなんだか悲しい気持ちになる、俺と神楽しかいない世界は終わってしまって、彼女は違う人と世界で2人っきりになるのだ。
いいなあ、いいなあ、俺ももっと打ちたかった。
俺も、もっと