第2章 【前日譚】恋と呼ぶには近すぎて
「で、どうだったよ」
勉強会と称してファミレスで教科書を広げて目の前の藤堂に話を聞く、今日は日曜日。
内山の誕生日の次の日だ。
「…フラれました……そう言う目で見たことないって…」
藤堂はあからさまにションボリして俺を見る。
「うわ、どんまい」
「軽いなー」
ぷー、と彼が頬を膨らませてドリンクバーで取ってきたのだろうカルピスに口をつける。
「まーでもスッキリしたわ」
西浦に願書出さなくて良かった〜、と小さな声でごちた藤堂を尻目に勉強を続ける。
そんな俺の様子を藤堂は勉強もせずにじっと見つめる、視線が気になってしょうがない。
「ンだよ」
「いや、やっぱ内山ってさ、かわいいよな」
フラれてもまだ言うか、呆れた視線で見れば藤堂はへらりと笑った。
結局内山の誕生日は妹が祝いに行った、俺はいかなかったけど。
明日はクリスマスだ、きっと今年も家族でケーキを囲むのだろう、内山も、藤堂も、斎藤だってきっとそうだ。
それで、冬が明けたら春が来て、また新しいところで新しいことをする。
死ぬわけじゃない、中学野球で人生が終わるわけではない、あのグラウンドで感じたノスタルジーは確かにそこにあるものだったけれど。
「高校でも野球するよ俺」
藤堂がソファに背を預けてそう言った。
「花井は?」
顔を窓の外に向けたまま、視線だけよこしてこちらに問う。
同じく窓の外に視線を向ける。何もないただの見慣れた風景が広がっている、特別なことなんてなにもない。
俺の中学野球が終わることも、藤堂が内山にフラれたことも。
確かに風呂敷は少しづつ畳まれている、それはどうしようもない事実だ、だけどそこで終わりじゃない。
「俺は…そうだな」
太陽の光に目を細める、自分の名前を呼ぶ彼女を思い出して、そういえば内山に高校でも野球に関わっていくのか聞いてなかったことに気づく。
結局俺は、自分のことで精一杯だったんだな。
「どっちでもいいや」
その答えに藤堂はによりと笑った。
「なんだその顔は」
「花井ってやっぱ野球好きだよな〜って」
「今の会話のどこにそんな要素あったんだよ」
この気持ちは、恋と呼ぶには深すぎて、愛と呼ぶには恣意的だ。
それでも確かに、春は来る。