第2章 【前日譚】恋と呼ぶには近すぎて
「花井先輩!」
グラウンドに行くと後輩たちが口々に自分の名前を呼ぶ、もう花井キャプテンとは呼んでくれないのが一抹の寂しさだ、呼ぶなとキツく言いつけたのは自分だが…。
「斎藤居る?」
聞くと斎藤は居残りで遅れるらしい、教室に行っても良かったが他の部員が引き止めるために行くに行けなかった。
ずっとここに居るでも居心地が良かったのだが、唯一気がかりなことがあるとすればあいつだ。
あんまりうだうだとこの場に止まるとあいつと鉢合わせしてしまう、ただでさえ気まずいのに。
俺が一方的にそう思ってるだけなんだけど…。
部活の練習は自分たちがいた頃となん等変わってない、ただ三年が居なくなったので人が少なく、物悲しい気持ちになった。
アイツは、俺たちが居なくなったグラウンドを見てなにを思ったのだろうか、今の俺と同じように物悲しい気持ちになったりしたのだろうか。
吐く吐息は白い、それは後輩たちも同じだ。
ここに居る時はユニフォームを着てたのに、今はマフラーしてニットして、帰るときの格好で
それが無性にミスマッチというか、馴染めないというか、ああ、俺の中学野球は終わったんだなって、無性に寂しくなった。
今さっきまではウキウキして、浮ついた気持ちだったが今は無性に帰りたい、この場にいたくないと強く思った。
どうにも場違いな気がしてならない、ここはお前の居るところじゃないと言われているようで。
もう帰ろう、ベンチにかけてあったバッグを肩にかける、名簿は渡したしここに居る用事もない。
ここにいるには気まずいし何よりグラウンドから逃げたかったんだと思う、斎藤には悪いことしたな。
なんだか最近なにをしてもうまくいかない、地面を見つめて歩く、こうやって下を向いてると気分も下がる。
きゃいきゃいと声が聞こえて河川敷を見れば草野球をしてる子供が見えた、こんな寒い日だというのに元気で羨ましい。