第73章 どしゃ降りの雨
家に帰るとおはぎが出迎えてくれた。
おはぎは俺にすり寄ってくる。
もう暴れ回ることはなくなった。アイツの部屋に閉じこもることもしない。
……まるで、のことを忘れてしまったみたいに。
猫は情が薄いと言うが、大丈夫なのだろうか。最近はそればかりが不安だ。
「期末終われば夏休みだからなあ、ちょっとは構ってやれるぜ。」
「にゃあ。」
おはぎはつぶらな青い目を向ける。
ふと、時透を思い出させた。
…そういや、あの後時透は大丈夫だったのか?阿国をだと思って声をかけたが、当然阿国には何のことか分からずに拒絶され、ショックであの場から走り去った。
あの後兄の有一郎が追いかけたが…。
……教えてやりたいが、教えたらの気持ちはどうなる。アイツは…時透が自分とかかわらないで幸せになることを望んでいる。
………俺は全部見ていた。時透と暮らす霧雨さんも、霧雨さんが死んでから霧雨さんを忘れた時透も、記憶を取り戻した時透も…。
そして今、あの二人をまた見ている。
それぞれに想いがあって、すれ違う。けれど、引き合わせられない。俺が間に入ることなんてできない。
悲鳴嶼さんの言ってたことが今更理解できる。
『時透と彼女の関係は親密なようで微妙なのだ』
……ああ、本当にその通りだ。
触れてしまえばすぐ壊れてしまうような関係性。
霧雨さんは多分自覚していた。
親密になればなるほど時透が鬼殺隊にのめり込んでいく。恐らくそれを避けたかったんだろう。最初は継子を拒んだと聞いている。だが時透は何があってもあの人の側を離れなかった。
熱心に面倒を見ていたとのことだが、その心中はどんなものだったのだろうか。
霧雨さんが根負けした…というように思えるが、本当にそうだろうか。
あの人は、時透を…。
……。