第58章 大正“浪漫”ー拾ー
担当地区の見廻りに行くと宇髄くんと鉢合わせた。
「は?あんたもう良いのかよ」
「…恐らく」
「いやいやいや派手に嘘だろ」
確かにふらつく。けれど、まあ死にはしない。
「地味なことすんな、胡蝶の世話になっといてくださいよ」
「地味なことを気にするのですね」
私が言うと、宇髄くんはムッとしたらしかった。地味というのは彼にとって一番嫌な言葉だろう。
「では、私はこれで。」
私は夜を駆けた。
鬼の気配はしない。けれど、油断はできない。気配のない鬼もいるから。
私は一晩見廻りをして、明け方に蝶屋敷に戻った。しのぶはまだ帰っておらず、寝ている子達を起こさぬように屋敷に入った。
寝台に座って隊服をぬぐ。はらはらと包帯をほどくと、見事に傷は完治していた。
………。
これが鬼の再生力なのか。
私は右肩をおさえ、再び隊服に袖を通した。
朝になってしのぶが戻ってくるのを待ち、私は声をかけた。
「お世話になりました。私は帰ります。」
「………そうですか。また何かあればいらしてください。」
しのぶがにこりと笑う。
「………。」
私は言いたいことがあったが、中々言葉が出てこなかった。
「……時透くんのことは、私が見ていますから。」
まるで心の中を覗かれた気がしてハッとした。
先ほどはまだぐっすりと眠っていた。
「ただ、霧雨さんも病み上がりなんですから機能回復訓練は受けに来てくださいね。任務もしばらくは無理をしないように。」
「………はい。」
ぐうの音も出ない。
私は頭を下げて礼を言い、蝶屋敷を去った。