第58章 大正“浪漫”ー拾ー
目を覚ました。
………恐らく、もう夕方。
むくりと起き上がると、隣に無一郎くんが眠っていた。
治療もばっちり。きっと良くなるだろう。
私は起き上がった。さらしと包帯のみだった。側にアイロンにかけられた隊服のシャツが見えたので袖を通した。
寝台から立ち上がるとぎしりと床がきしむ音がした。
まだふらつくが恐らく問題ない。
「わあッ!!」
私を見て小さな女の子たちが声をあげる。
人差し指を口に当てた。他に眠っている人達がいる。大きな声はいけない。
「あ、か、霞柱様…」
私に怯えているのだろうか。
刀を持ち、外へ出た。廊下を歩いていると部屋の中で立派な仏壇の前に座るしのぶが見えた。
私に気づいてしのぶが振り返る。
「霧雨さん」
驚いて駆け寄ってくる。
「どこへ行くおつもりですか、まさか…」
「宇髄くんに任せきりではいられないので」
「いけません、わかっていますか、重傷なんですよ。」
……。そんなに深く傷をつけられたのだろうか。
「…ただの鬼に傷を負うなど……どうされたのですか。」
しのぶが顔をしかめて言う。
「……死んだ仲間達が、私を呼んでいるような…」
空を見上げた。そろそろ日が暮れる。
「なんてね」
私がにこりと笑って振り向くと、しのぶは戸惑ったように黙り込んでいた。
「大丈夫。」
____怖くないよ。
私が言うと、しのぶは振り返った。
立派な仏壇。きっとカナエちゃん…胡蝶さんのものだろう。カナエちゃんって呼んだら、子供扱いされているみたいだと、可愛らしくむくれた、あの子。
「最後まで、霞柱として生きて、私も逝きますから。」
私がそう言う理由を、きっとしのぶは知らない。
知らなくていいことだ。
私はにこりと笑ってその場をあとにした。