第58章 大正“浪漫”ー拾ー
そうして新しい刀を帯刀して外に出た。
「おい、お前顔が青いぞ。あとふらついてる。」
「気のせいでは?」
肩がかなりいたかった。斬れたというよりえぐれたに近いから、すぐには治らないのだ。多分、さっき宇髄くんの一撃をくらう前から傷は開いていた。不死川くんへの一本背負いも余計だったな。
「そんなに歩いてどこに行く」
「どこへでも」
「死ぬぞ」
「かもね」
「良いのか」
「そうじゃないかな」
私は歩き続けた。
屋敷から数十分歩いたところ。
気配でわかっていた。何よりもはっきりとわかっていた。
「…何だあれ、薄切れのボロ布か?」
ガラスが少し先のものを言った。
私は駆け寄って、側にしゃがみこんだ。
「………」
その頬に触れる。体中が血に塗れ、意識ももうない。
「ッ!!小僧か!?」
「……急ぎましょう」
私はそれを背負い、歩き始めた。
「お前ッ!!小僧を下ろせ、死ぬぞ!?」
「かまいません」
「かまうわ!!」
無一郎くんだった。
お館様に言われたあたりから薄々気づいていた。無一郎くんが選別を勝ち抜いたのだと。なので藤襲山に向かって歩いていた彼の気配をたどりながら。
「私が止まればこの子が死にます。」
「いや…ッそうだろうけど!!」
私は歩き続けた。
「まッ、まさか、蝶屋敷まで…!?」
「藤の家は休養を取るためのもの。専門的な治療は蝶屋敷へ向かわなくては。」
「あ、アホッ!!ちょっと待て、止まれ!!」
「止まらない死なせない私は歩く」
歩く度に足に激痛が走る。一週間歩いて走ってその繰り返しだった。一睡もしていない。
怪我の治療もろくにしなかった。食事もあまり取っていない。
ガラスが大きく羽ばたき、飛んでいくのが見えた。
私はそれを見届けて、最後の力を振り絞った。