第57章 大正“浪漫”ー玖ー
細切れにしてやる。
「月の霞消ッ!!!」
私は天井一面に向けて刃を振るった。
古い洋館が悲鳴をあげる。天井が崩れ、鬼が見えた。まるで寄生植物のように伸びに伸びた細長い体が特徴的だった。
百ほどに体をバラバラに斬り刻んでやった。けれど頚は繋がっている。
あの鬼が斬られたくないと嫌がっている部分がよくわかる。そんな気配がひしひしとする。
「ちょっとだけすごかったよ…!」
久しぶりにヒヤッと来た。私は冷や汗をぬぐって飛んだ。
「弐ノ型八重霞ッ!!!」
頚を一刀両断する。
鬼は断末魔をあげながら消えていく。
その時、雷のように頭の中にぴきッと嫌な気配が飛び込んできた。あたりからミシミシと音がする。
「え」
私の呟きに返事をするように、メキメキバキバキと音をたてておんぼろの洋館は崩れ落ちてきた。
(…あんだけやればそうなるか……)
消えていく鬼の体を横目に、私は自分の愚かさを痛感した。
右手を握りしめて思いっきり伸ばした。
ドカ、バキ、と軽い木片を砕く音がして、右手が外気に触れたのを感じてから一気に左手であたりの瓦礫を退かした。
「………。」
持ち上げた少し大きい瓦礫からパラパラ、と木屑やコンクリの欠片が降ってくる。
風に髪が揺れる。……やっと出られた。外だ。
「げほっ」
ホコリを盛大に吸い込んだので一度咳き込む。
「最悪だ…」
持ち上げた瓦礫を思いっきり投げてあたりを見渡す。
瓦礫の山だ。これが洋館とは誰も思うまい。あぁ夜で良かった、誰もいない。
近くに誰か住んでるとかじゃないし、すぐには見つからないだろうけど時間の問題だ。
……はやく行かないと。
私は振り返りもせず、幼少記と少女時代を過ごした家を後にした。
全ての始まりの場所が消えたことに、ほんの少し安心を覚えた。