第57章 大正“浪漫”ー玖ー
「産屋敷…」
一番上にあったのはその名前だった。
「……は…?」
私はその名前に胸が跳ねた。
何だ。
私は確かにこの家系図を見たことがある。
『どうして、この方の名字が我々と異なるのですか?』
段々記憶のピースがはまってきた。
そうだ。幼い日に、私は父に尋ねた。
『霧雨というのは、この初代当主の母親の名字で、それを代々に継承させたのだ。名字が変わるなんてよくある話さ。』
私は確かに覚えている。父は煙草でも吸いながらぶっきらぼうに答えた。
『良いか。霧雨家は口上でしかその歴史を伝えられていない。私もよくは知らぬ。だが、確かに受け継がれているんだよ。』
父は珍しく饒舌だった。
そうだ。夢で見た。阿国には子供がいた。娘一人と息子一人。
…初代当主は恐らく当時はかなり珍しかったであろう女性。
霧雨家は阿国の子供が栄えさせたと氷雨くんは言っていた。
ならば、夢で見たあの子供が…。
では、それと同じくして夢に出てきた、子供の誕生を喜ぶあの夫は………。
「産屋敷家当主………つまり…鬼殺隊の…」
あぁ、辻褄は合う。
阿国は鬼殺隊だった必然的に産屋敷とは関わりがあるだろう。
それに、元は神社の娘……神職の家と契りを交わす産屋敷家と結ばれたとておかしくない。
ならば子供は産屋敷の名を名乗るだろう。けれどその名を捨てて霧雨の名を残した。
『霧雨の名を消してはならぬ。それが我々霧雨家のお役目だ。』
父親が話してくれた。
けれど、もう霧雨家はない。
私の兄達も行方が知れない。どこに行ったかどこにいるのか生きているのかさえ私も知らない。
「……だと…したら」
もしこれが本当ならば、私は…産屋敷の血を引いている……?
「……………。」
わからない。わからないわからない決断は出ない。
「私は…ッ…何者なのですか……!!!」
家系図を握りしめた。
果たして、私はどこから来たのだろうか。