第57章 大正“浪漫”ー玖ー
馬車を拾って、真夜中に東京府の中心地に戻ってきた。
浅草に到着。
目的地まで向かう。
気配でわかる。
「ごめんください」
扉を叩けばすぐに開いた。
「入れ」
ぶっきらぼうに言われ、一礼して中に入った。
奥の部屋にその人はいた。
「霧雨さん、お久しぶりです。」
その人は、美しく微笑む。
二人とも鬼の気配がする。
「こんばんは。本当にお久しぶりです。愈史郎さん、珠世さん。」
桜くんの遺書に、浅草の鬼を訪ねろとあった。
苦労はしたがようやくこの二人を見つけた。
鬼でありながら、鬼を討とうとしている存在。
桜くんの言う通り訪ね、珠世さんを信じた。桜くんは彼女に私のことを託してくれたそうで。
私は度々ここを訪れることとなった。
「最近はどうですか?…桜さんの話によると、薬の効果がでるまであと二ヶ月もないと聞きますが…。」
「恐らく効果は現れつつあると思います。この前なんか一昼夜丸々動き回ったのですが、一切疲れることはありませんでした。もう二日は眠っていません。」
「…それでは薬の効果で確実でしょう。」
珠世さんが頷く。愈史郎さんはその後ろでムッとしたように立っていた。
「まさかあのようなチビにこんな芸当ができるとはな。」
「桜くんはすごい子ですよ。」
「知っている。………ハカナは良くも悪くも諦めの悪い子供だった。」
愈史郎さんは桜くんの話をしてくれる。掃除をするとき本を読むとき色んな時。今みたいな時。
それは、私が知る桜くんと全く同じで。
どこでも彼はあの性格だったようだ。
「霧雨さん。人間を見て、何か思うことはありませんか。」
「…と、言いますと?」
「………桜さんの話によりますと、人間への捕食願望が現れる可能性があるとのことですから。」
ああ…それは聞いていた。
「今のところは大丈夫です。しかし、いつ現れるかわかりませんね?」
「そうですね…。……私たちも血を飲んで生きています。恐らくあの薬ならばさほどの量は必要ないでしょう。何かあったらいつでも訪ねてください。」
珠世さんが笑顔で言う。
私も微笑んでそれに答えた。