第56章 大正“浪漫”ー捌ー
縁側で見知らぬ男性と並んで座り、お茶を飲む。
「あなたの話が聞きたい」
唐突に、そう言われた。
波風たたぬ物静かな植物のような…少し雰囲気がお館様に似ている気がした。
「私のですか」
「………何やら、悲しそうにされているので…」
慌てて自分の顔にさわった。しかし涙が出ているわけでもなく。
私は目の前の、植物のような痩せ細った人が普通の人間ではないことを悟った。
私のように、何か特別なものを持った人なのだ。
「………悲しいわけではありません。」
私は答えた。
「……私は幼い頃から不思議と目に見えないものを感じていた。」
そう。霧雨家に生まれ落ちたその日から、私にこの力は存在していた。
「私はこの力の使い方を間違えてきたように思います。」
なぜ私だけにあるのか。
わからない。
私は人間を殺し、多くの仲間を見送ってしまった。
「何かを成し遂げるために私はこの力を持って生まれたのでしょう。」
空を見上げた。
「何もできませんでした、何も救えませんでした、何も…。」
青空の下で笑い合っていたはずの仲間がもういない。
朝には生きていて。昼も生きていて。夕も生きていて。
夜に死んだ。
私が最強なら、なぜ皆死んだ?こんな私の何が強いというのか。なぜ私は誰も救えないのか。なぜこんなにも愚かしいのか。
「………たまらなく無念で…心苦しいのです……」
自然とその言葉が出た。
心苦しい。
苦しい苦しい。あぁそうだ。私はそればかりだなぁ。
「………」
男の人はじっと私の話を聞いていた。
けれど、そこで話だした。
「私には…あなたの全てはわかりません。」
耳飾りが風に揺れた。
私はその耳飾りを見ると、なぜだか声をあげて泣きたくなるほどに悲しくなった。
「けれど、あの子は…花子はあなたに救われました。」
その人はにこりと微笑んだ。
「何も救えなかったというのは、それこそ間違いです。」
私はそれを聞いて、何だかスッとしたものが胸を通り抜けるような気がした。
嘘偽りのない言葉だとわかった。
「おとーさん…」
私が放心状態でいると、目が覚めたのか花子ちゃんが奥の部屋からのそのそとやってきた。