第56章 大正“浪漫”ー捌ー
「こっちであってるんですか?」
女の子は私の腕の中でうずくまって頷く。
怪我が痛くて動けないと言うので、私はこの子を抱いて歩いていた。
「…お嬢ちゃんお名前は?」
「ハナコ…」
「そう。可愛いお名前。」
道中そんなことを話していた。
「ハナコちゃん、まだ痛む?」
「ん…」
そんなに深くなかったし…大丈夫だと思うけど、こんなに小さな子なら仕方ない。
それにしても、このあたり何も気配を感じないけど。
「あなたどこから来たの?ひょっとしてずっと遠くから?」
「………」
ははぁ、迷子なのね。
可哀想。今にも泣きそうになってる。
「大丈夫。連れていってあげる。」
私は息を吸い込んで、気配を必死に探った。
女の子で両手が塞がって、さすがにつかれてきた。思えば一昼夜走り回ったのだから当たり前か。しかも草履で。
歩くこと数時間。ようやく人の気配がした。
「ハナコちゃんここらへん見覚えない?」
「…!あっち」
ハナコちゃんが気配のする方を指さすので、私はホッとした。
「もう大丈夫?帰れそう?」
「うん。でも、お姉ちゃんも一緒に来て。」
「………。」
どうしようか。
私が迷っているうちにはやく進めとうるさいので、私はまた歩いた。
そうしているうちに、立派な家にたどり着いた。
(………こんなところにまた、豪勢な…)
私が驚いていると、女の子がまた指をさす。
はやく行けと言うのか。
いや、もういいか。
私が降ろしてやろうとしても頑なに降りようとしなかった。
「……ハナコちゃん…お家間違えちゃったの?」
「ううん」
「……」
私はそのまま彼女を抱いたままだった。こんなにも幼子相手に手を焼くとは思わなかった。何でだ。自分の家があるのになぜ帰らない。
……これが俗に言う甘えたモードってやつか?…でも赤の他人の私に発揮されてもなぁ…。
そうして困っているとき、屋敷内の気配が動くのを感じた。
とても静かな気配だった。人間というより、まるで…木のような、植物のような。
「……花子…?」
「お父さん!!」
縁側にのそりと姿を現したその姿をみてハナコ…花子ちゃんが叫んだ。