第56章 大正“浪漫”ー捌ー
担当地区を抜けて悪いことをしただろうか。でも、誰の担当地区でもないところに鬼が出ているのも少々問題ではなかろうか。
「報告しないと」
と、思ったが今の私は勝手にとはいえ鬼殺隊を離れているし、こういう郊外の鬼は一般隊士の仕事だ。
「………うーん」
私は頚落ちた鬼を見届け、刀片手に空を見上げた。
氷雨くんにはああ言ったが行くところもやることもない。氷雨くんに会えたことで目標は達成された。
何となく歩き続けて、田舎の村にたどり着いた。
鬼を追いかけるうちに山中にあるそこを見つけた。
田んぼの中心にただ真っ直ぐの道があった。
「……よし」
足を一歩踏み出し、また一歩…。
そうして私は一本道を走った。
『屋敷をなくしのらりくらりとさ迷い歩いた私は、東京府の郊外にて暗い夜空の下を走りました。』
『一度で良いので、外の世界を走ってみたいと願った幼い日の私の願いを叶えたかったのかもしれません。』
『私はただひた走りました。無心でした。楽しいのかもつまらないのかも覚えていません。』
『風を切って、ただひた走りました。』
『周りの景色はどれだけ走っても変わらなくて、ずっと田舎の風景でした。』
『気づけば太陽は天高く登っていました。』
『私は一昼夜走り続けても息が切れることも疲れることもありませんでした。』
『これが自由かと、私は喜んでいたのだと思います。』
『私を縛るものなどそこには何もなく、ただ太陽が眩しかっただけなのです。』
『しかし、私はふと走るのをやめました。』