第5章 ユニークなトランプ達は踊る
「たしか…あの2人って、許嫁だったよな?」
「えぇ!そうだったんですか!」
トレイの言葉にショックを受けるデュースだったけれど。
よくよく考えれば、自分には関係ない事に気が付いた。
だって、他国の従者であるデュースが、お姫様と恋に落ちるシチュエーションなど現実に起こるはずがない。
それこそ、天と地がひっくり返りでもしない限り。
「その通りだよ。彼女が産まれる前に、親同士が取り決めたらしい」
「ま、普通にお似合いだよなぁ。美男美女で。
俺達には、もはやダンスに誘う権利すら与えられてないって感じだ」
「ほんと、そうですよね…」はぁ
オーロラとフィリップは、すぐ目の前で踊っているというのに。
なんだか遠い国の話みたいだと、トレイとデュースは思った。
そんな2人に、リドルがピシャリと言い放つ。
「権利?
君達にはなくても、ボクにはある」
「「え」」
「ふふっ。ボクは同盟国の王子だよ?」
どん。と胸を張って歩き出すリドル。
そんな後ろ姿に、2人は呟いた。
「「…ずるい」」
ちょうど1曲踊り終えた、フィリップ達がこちらに向かって歩いて来る。
すかさずリドルは話しかける。
「オーロラ姫様。次はボクと、踊って頂けますか?」
『リドル…!ふふ。嬉しい。ぜひお願いします』
そう言うとオーロラは、フィリップの手の平の上に乗せていた手を、リドルの手の上に移動させた。
ダンスホールの中心で、ゆったりと踊る。
オーロラも、リドルも。幼い頃からダンスは随分と練習していた。
勿論、社交ダンスくらい踊りこなす事は王族の必須事項だ。
互いに思った。
彼が、彼女が。ここまで完璧にステップを踏めるようになるまで。
大変な努力をしてきたのだろうと。
言葉で語らなくても、こうして手を繋いで踊っているだけで
なんとなく互いの苦労が分かってしまうのだった。
王族としての、重い定めを背負って生きていた事を。