第25章 全てを 超えて
「思えば…ローズが産まれてからの、この16年間が…僕の生涯の中で最も濃密な時間だったような気がする。
不思議な感覚だ。16年という時間など瞬く間だと言えるくらい、長く生きてきたというのに。
こんなにもたくさん、心の底から笑ったのも、怒ったのも…初めてだった。これが、生きるというものなんだと知った。全て、お前のおかげだ。
きっと僕はもう…お前が隣にいないとこの先 生きていけないんだろうな。
だから、ローズ…」
マレウスは、そっとローズの手をすくい上げた。それから、優しく手の甲に口付けた。
まるで、騎士が姫に忠誠を誓うようなシーン。それがあまりにも嬉しくて…優しいキスが心に染み渡るようで…
彼女は、感動で泣き出してしまいそうになるのを懸命に堪えた。次の、マレウスからの言葉を聞き逃すわけには いかないから。
もうすぐ、彼から紡がれる言葉はきっと…生涯大切にしていくべき言葉だと 予感したから。
「僕を、君の傍に置いてくれるか?
愛しいその刹那の瞬間を。どうか全部僕にくれ」
『…喜んで』
目に涙を溜める彼女を、マレウスはふわりと抱き上げた。
ローズは、少しだけ下に来た彼の顔を見つめて笑う。
『嬉しい…。私、きっと可愛いおばあちゃんになるわ。
そして、長く長く生きた私が息を引き取る時に
“ あぁ、この人を愛せて良かったな ” って、マレウスに心から思って貰えるように、精一杯 頑張るから』