第23章 呪われし姫の帰城
部屋を出てきたデュースの目は、また赤くなっている。それを見た全員が、デュースはまた泣いたのか。そう悟るのは容易い。
しかし、そんな彼を揶揄する者は居なかった。
「悪いリドル。次は俺が行かせて貰ってもいいか」
「キミ達は揃いも揃って…主君を軽んじているとしか思えないね」
「いや そういう訳じゃないんだが…
ま、俺もデュースと同じなんだよ。
真剣に きちんと伝えておかないと、後悔する気がしてな」
リドルは、それ以上は何も言わない。ただ静かに、部屋へと消えていくトレイを見送ったのだった。
「…約束通り、足掻きに来たぞ」
ベットの脇に 適当な椅子を持って来て、ゆっくりと腰を下ろす。
瞳を閉じたローズを見下ろして言った、それが彼の第一声であった。
トレイは彼女から、とあるワガママを 許して貰っていた。
もしもローズが呪いの手に落ちてしまった際、精一杯 “ 足掻く ” 権利。
「まったく…お前は本当に優しいよな。
そんなローズに漬け込んでる俺は、情け無いくて…弱い男だって思い知らされるみたいだ。
ローズは、優しくて、強い。間違いなく」
しかし彼は、彼女の他の面も知っている。
トレイは、かつて目撃した。
ローズが、呪いに怯え、寂しさに負けそうになっている姿を。
皆んなの前では気丈に振る舞っているローズ。
そんな彼女の心の奥の柔らかい部分。トレイは それ触れた事のある、数少ない人間であった。
人目を憚り、深夜に1人 泣き声を上げる彼女。
今思えば、それを目撃した瞬間から…トレイの恋は、始まったのかもしれない。
「ローズ。
俺は、お前に会って初めて自分を知った。
自分が一途な人間で、意外と嫉妬深くて独占欲の強い、そんな男だったなんて…。恋をするまでは、知らなかったよ」
トレイは椅子から腰を上げると、ローズの白い顔を見下ろした。
そして、彼女の眉にかかった前髪を優しくはらう。
「好きだ、なんて言葉じゃ足りないくらい
俺はお前が好きだよ。ローズ」
顔を少し傾け、唇を合わせる。
しかし。
ローズは目を開かない。