第23章 呪われし姫の帰城
足が震えた。扉が、信じられないくらい重い。
デュースの目に、眠り姫の姿が映る。改めて、冷たい現実を突き付けられる。認めたくなかった。彼女が深い眠りに落ちてしまったなど。
目を閉じれば、共に過ごした時間が思い出される。それは、楽しいものばかりだった。
優しく明るいローズが、デュースは本当に大好きだった。
「…ローズ」
ぽつり、落としたように名前を囁いてみる。
“ どうしたの?デュース ”
そう、返ってくるのを 彼はついつい期待した。
「…僕が名前を呼んだら、いつも ローズは笑顔で、どうしたの?って言って…名を返してくれたよな。
それが、どれくらい特別で幸せな事だったのか。馬鹿な僕は、今さら自覚したんだ…っ」
デュースは、ローズの手に自分の手を重ねた。
彼女の手は温かくて、その体温がデュースをひどく安心させた。
「最近、月が綺麗だった あの夜の事を…いつも思い出すんだ。
ローズは覚えてるか?
僕はあの時…情け無いけど、逃げ出したんだ。
自分の気持ち、伝えたらそこで全部が終わる気がして。
———でも」
しかし、彼はもうあの時とは違う。
覚悟なら、しっかりと決めてきたのだ。
「僕は、好きだ。ローズが、好きだ…っ!」
声が震えるのも、顔が真っ赤に染まっているのも、心音が異常な程高鳴っているのも、彼は恥ずかしくてたまらなかったが…
それを茶化す者など、この部屋には いはしない。
デュースは、その赤い顔をローズの顔の上へと持って来る。
「…でも、今は…自分が選ばれなくても 良いと思ってる。
俺なら…どれだけ傷付いてもいいから…、失恋したっていいから…!だからっ、」
デュースの綺麗な涙が、ぽたり ぽたりと。彼女の頬を濡らした。
「お願いだ、ローズ…!目を、開けてくれ、
また名前を呼んでくれるだけで、いいから…!好きになってくれなんて、言わないからさ…
起きてくれ…!」
デュースは、ふわりと彼女に口付けた。ありったけの願いを込めて。
しかし。
ローズは目を開かない。