第21章 育まれる愛とフルムーン
一度でも恋をした経験がある人間にならば理解が出来ると思う。告白にはそれ相応の覚悟が必要だということを。
この気持ちを打ち明けてしまえば、もう友達には戻れない。
結果がどうあれ、元通りの関係には 戻れないのだ。
それはすなわち “ 友達関係 ” を捨てた者だけが “ 告白する権利 ” を得られるということ。
デュースは、その2つの間で揺れていた。彼の中の天秤が、グラグラ動く。
彼は、まだそこまでの覚悟が持てなかったのだ。
今までローズと培ってきた、親愛。それを自分の方からかなぐり捨てる覚悟が。
しかし、目の前に佇む彼女を見ていると 言ってしまいたい。自分の心を、彼女に届けたい。
そんな彼が、苦肉の策で口にした言葉…それが、これだった。
「つ、月が!」
『?』
「月が綺麗だな!!」
『う、うん。
今日は朝に雨が降ったから、空気が澄んでいるのかしら。だから綺麗に見えるんでしょうね』
「………」
デュースは顔を真っ赤にして、窓の外の月を指差して言った。
が…どうやら、ローズにこの言葉の真意は伝わらなかったようだ。
彼がどうして、不自然なくらいに気合を入れて それを口にしたのか分からない。というふうに首を傾げた。
そんな彼女の顔を見たデュースは、全身の力が抜けたように ふにゃりと笑う。
「ははっ」
『え、なに?私、変な事言った?』
「いや、何でもない。本当に、何でもないんだ。
今は まだ」
『?』
ローズが その言葉の本当の意味を知らなくて、安心している自分と、ガッカリしている自分が同居している。そんな気持ちにデュースは気が付いていた。
彼は、そんな自分が少し情け無く感じたのだが…いま1つの決意を固めた。
ローズが無事、16歳を迎えられたその時には… “ 親愛 ” を捨てるという覚悟を。