第21章 育まれる愛とフルムーン
やがて、別れの時間がやってくる。
ローズは、朝の早い時間を利用して こっそりと抜け出して来たに過ぎないのだ。
彼女は名残惜しそうに立ち上がって、服に付いた芝をはらう。それを見ていたマレウスも、やや遅れて腰を上げた。
『そろそろ行かなくちゃ…。デュースが起きちゃう』
「あぁ。目が覚めてお前がいなければ、さぞ心配するだろうからな。
…そうだ、最後に 少しいいか?」
『?』
「大したことでは無いが、何か…礼をしたいと思ってな」
『お礼?』
「素晴らしい歌を聞かせて貰った礼と、美味な林檎への礼だ」
悠然とした立ち姿のマレウスを見つめながら、ローズは戸惑った。
まさか、それくらいで御礼をしたいなどと言い出すとは予想していなかったからだ。
逆に、彼女の方がマレウスに大きな借りがあると言っても過言では無い。というわけで、丁重に断りを入れたのだが…。マレウスは譲らなかった。
彼は意外にも、頑固な性格のようだ。
それならば…と、ローズは頭の中に浮かんだ わがままを1つ。口にしてみる事にした。
言葉にすると決めた途端、彼女の心臓はバクバクと急に主張を始めた。この音が彼に聞こえてしまわないか、不安になるくらいに。