第21章 育まれる愛とフルムーン
『そうだマレウス、お腹空いてない?林檎食べる?』
「…そうだな、特段腹は減っていないが。せっかくだから頂くとしよう」
『凄く美味しいのよ?これね、家の近くに林檎の木があって、私達が育てたものなの。今年のは特別上手く出来たから、マレウスにも食べて欲しくて持って来たのよ。
すぐに剥くから、待っててね』
「!!そのナイフは」
『あぁ、これ?これはね』
真っ赤な林檎を持ち、利き手にはナイフを握るローズの手。その手に釘付けになるマレウス。
そう。このナイフは、両親から贈られたもの。彼女が城を出た時から肌身離さず持っている、純銀で出来た、特別なナイフだ。
魔法師としての才は一級で、周りは敵なしのマレウス。当然、普通の武器では彼に敵う人間などいない。
が、この銀で出来た武器があれば話は変わってくる。彼の唯一の弱点と言っても過言では無い。
そんなものを、ローズが自分の前に取り出したのだから、マレウスが一瞬 動転しても不思議では無い。
『…長い別れの時、両親が私にくれたものは2つあったの。
1つは、ローズという新しい名前。もう1つが、この純銀製のナイフ。
本当は、護身用に贈られたものなんだけど…ありがたい事にまだそういう用途で使った事は無…
あ。そういうば一度だけジェイドに向けてしまった事があるわね。その時は、彼が刀身を掴んでしまって驚いた。
そんなに気になるの?さっきから、じっとナイフを見てる。
良かったら、持ってみる?』
「…いや。遠慮しておこう。
それよりも、しっかりと心づもりをしておいた方が良い」
『心づもり?』
「あぁ。もしも目の前に、お前に呪いをかけたドラゴンが現れた時…
そのナイフで心臓を、ひと突きにする 覚悟をしておけ」