第21章 育まれる愛とフルムーン
事実、その違い過ぎる寿命のせいで、人間と妖精族が結ばれる事はまずない。
その理由は、わざわざ書き記すまでもないと思うが…下記の通りだ。
先ほどマレウスが語ったように、妖精族からしてみれば、人の一生はあまりに短い。
全くと言っていいほど、見た目の変わらない自分の隣で、どんどん老いていく人間。
逆に…自分がどんどん老いていく隣で、いつまでも若く美しい姿の妖精族。
どれだけ深く愛し合おうとも “ 時間の流れる速さが違う ” という壁が、どうしても立ち塞がる。この壁があるために、2種族が交わる事はないのだ。
それこそが、この世界の理と言っても過言では無かった。
『マレウス!そんなに悲しそうな顔をしないで?ほら、見て見て!お花で冠を作ったのよ?これあげるから元気出して!』
「…花の、冠…」
『そうよ、ほら。こうやって頭に…頭に…。あ、あれ?角があるせいで乗せられない!
もっと大きく作って、首飾りにするべきだったかも。もうちょっと待っててね、いま作り直』
「いや、これでいい」
マレウスは、ローズの手から花冠を受け取る。そして自分の片方の角に引っ掛けるのであった。
高貴とも言える漆黒の角に、野花が飾られる光景。見る者が見れば 異様とも取れるだろうが、ローズは満足だった。
すると、花冠に吸い寄せられるように、どこからともなく黄蝶がヒラヒラとやってきた。そしてなんと、マレウスの角の先端で羽を休めたのだ。
『ふふ。この蝶も、きっとマレウスが優しいって知っているのね。安心して休んでる』
「…お前は、いつも楽しそうに笑っているな。今のお前の立場で、どうして笑顔を絶やさないでいられるのか…僕には全く理解が出来ない」
“ マレウス、貴方が側にいてくれるから ”
ローズは、頭の中に咄嗟に出て来たその言葉を 口にしようか悩んだ。しかし、結局は伝えられずに 自分の胸へと押し戻した。